夜の静寂を破るのは、ふわふわの足音と優しい鼻先の突き上げだった。
私の愛犬、ゴールデンレトリバーのベイリーは、8歳になってから夜中にトイレへ行きたがるようになった。最初のうちは私も寝ぼけながら付き合っていたが、最近は「おしっこが終わったらすぐに戻ってくる」とは限らなくなった。庭に出すと、彼は用を足したあと、星空を眺めながらゆったりと夜の空気を楽しむ。10分、20分と帰ってこないこともあり、私は寒空の下で待ちぼうけを食らうことになった。

星空を眺めるBailey君
「これは、私の睡眠時間を守るために何か工夫が必要だ!」

失敗した赤外線(IR)センサー
そう考えた私は、スマートホームデバイスの力を借りることにした。一番最初に思いつくのは赤外線を利用した人感センサーであるが、これは屋外に設置した場合、温度や風などで結構な頻度で誤作動する。実際に試してみたが、誤作動で毎度のように私の安眠を阻害する。
そこで、庭に出るドアの前に振動センサーを設置し、ベイリーがデッキに戻る足音を感知すると、私の寝室の電気が点灯するように設定したのだ。こうすれば、私が寒い思いをすることなく、ベイリーの「ただいま」を知ることができる。
しかし、最初の実験は見事に失敗した。思った以上にベイリーは足音を立てずに歩いていたのだ。私の想定では、彼がデッキに戻ってくれば、振動センサーがすぐに反応してくれるはずだった。ところが、ベイリーの歩き方は驚くほど静かで、まるで忍者のようだった。センサーは微動だにせず、私は「え、まさか?」と半信半疑のままドアを開けると、すでにベイリーはしっぽを振りながら待っていた。
「これは困ったぞ…」

細長い棒に取り付けた振動センサー
そこからが試行錯誤の始まりだった。センサーの位置を変えたり、感度を調整したり、時には別のデバイスを試してみたり。何度も何度もベイリーと夜中の実験を繰り返した。ベイリー自身は何のことか分かっていなかっただろうが、「また何かやってるな」といった顔で付き合ってくれた。
最終的に、私はセンサーを直接デッキに取り付けるのではなく、細い木の棒にセンサーを取り付けてデッキの上に置くことで反応を敏感にまた広く取ることができた。そしてデッキでようやく反応するポイントを見つけた。デッキの特定の場所を通るときにだけ、わずかに振動が伝わることがわかり、そこに設置するとやっと機能するようになったのだ。
こうして迎えた再挑戦の夜。私は少しドキドキしながらベッドに戻った。「ちゃんと動作するだろうか?」という不安もあったが、そんな心配は杞憂だった。しばらくして、部屋の明かりがふわっと灯る。ベイリーが帰ってきたのだ。

帰ってきたBailey君
「ああ、便利!」
私は満足しながらドアを開け、彼を迎え入れた。ベイリーは何も知らずにしっぽを振りながら部屋へと入ってくる。彼にとっては、ただのいつもの夜のルーティン。しかし、私にとっては大きな革命だった。